日本の国技であり、老若男女全ての世代にファンが多い大相撲。
立ち合いのぶつかりの衝撃は1トン近くにもなるといわれ、一瞬のぶつかり合いで決着がつきます。
まさに「力のスポーツ」といえるでしょう。
豪快な投げを得意とする力士、相手を圧倒する突っ張りが持ち味の力士、
鍛えられた強靭な足腰で寄り切る力士と、取り口一つ見るだけでも個性が出て面白いものです。
さて、「力士」という言葉を辞書で引くと、読んで字のごとく「力の強い人」と記されています。
はたして、大相撲力士の腕力はどれほど強いのでしょうか?
技術を除き、純粋な力のみの勝負になったとき、誰に軍配が上がるのでしょうか?
ファンの方であれば、一度は気になったことがある疑問かもしれません。
今回は力士の平均握力がどれぐらいか、現役最強の握力を持つのは誰か、一緒に見ていきたいと思います。
力士の平均握力
結論からお伝えすると、東京教育大学スポーツ研究所の論文にて、以下のように記されています。
背筋力の平均は181kg, 握力左右平均47.9kgと予想したほど大きくなく, オリンピックの重量挙や投擲選手以下である。筋力の測定方法等に問題があるにしても, 筋力は形態に比べ予想外に発達していないと考えられる。
CiNiiより引用
日本人男性の35~39歳の平均握力が47.14kgとされていますので、そちらとほぼ同等ということになります。
体躯から予想するほど力士の平均的な握力は強くないと言って良いでしょう。
ずっしりした恰幅である幕内力士の握力が一般男性並みと聞くと、少なからず意外に感じられるかもしれません。
ただ、ここまで数値が低いことにはいくつか理由が考えられます。
論文に「左右平均」と書いてあるので、利き腕ではない腕の握力も数値としてカウントされてしまっていることや、
指が太すぎて計測器のグリップに入らずにうまく握れなかった可能性があるということです。
大相撲最強の握力の持ち主は?
平均握力がそれほど強くないとお伝えしましたが、調べてみると力士の中で握力にかなりバラつきがあることも分かってきました。
関取の中で誰の握力が一番強いのか、気になりますよね。
過去に、Youtubeの日本相撲協会公式チャンネルにて握力対決が行われておりました。
その様子がこちら!
正代関と宇良関の100kg超えには驚きですね!
強さの秘密が「馬刺しです」というのも、熊本出身の正代関らしい一言ですし、
のほほんとした雰囲気ながらも計測器を振り切った宇良関の力も凄まじいです。
また、横綱経験がある照ノ富士関、白鵬関、鶴竜関も上位に食い込んでおり、さすがの存在感を放っています。
握力の左右平均47.9kgというデータが発表されていますが、
この動画に出演した力士は軒並み握力が高かったようです。(千代丸関は再挑戦に期待したいですが・・・笑)
結果も面白かったのですが、握力計を必死に握ったり、
インタビュアーの先輩親方と終始リラックスして話したりする関取衆の姿にギャップが有り、なんとも愛着が湧く動画でした。
四つ相撲が得意な力士は握力が強い?
動画の結果を更に詳しく見ていくと、興味深いことが分かりました。
それは、四つ相撲が得意な力士は握力が強い傾向にあるということ。
四つ相撲とは、相手の廻しを掴み、体を密着させるように組み合う相撲のことです。
動画内でも貴景勝関が「突き相撲なのであまり得意ではない」と自覚していたように、大相撲では一般的に、
四つ相撲:握力が強い
突き・押し相撲:握力が弱い
とされているようです。
下に、今回の結果と関取の得意技についてまとめてみました。
力士名 | 握力 | 得意技 |
正代 | 100kg超 | 右四つ・寄り |
宇良 | 100kg超 | 押し・足取り |
照ノ富士 | 99kg | 右四つ・寄り |
白鵬 | 88kg | 右四つ・寄り |
鶴竜 | 87kg | 右四つ・下手投げ |
朝乃山 | 86kg | 右四つ・寄り |
玉鷲 | 85kg | 押し |
竜虎 | 76kg | 右四つ・寄り |
遠藤 | 76kg | 突っ張り・左四つ・寄り |
千代の国 | 76kg | 突き・押し・左四つ・寄り |
隆の勝 | 73kg | 押し |
栃ノ心 | 72kg | 右四つ・上手投げ |
貴景勝 | 70kg | 突き・押し |
碧山 | 70kg | 右四つ・寄り |
阿武咲 | 69kg | 突き・押し |
御嶽海 | 68kg | 突き・押し |
宝富士 | 68kg | 左四つ・寄り |
王鵬 | 67kg | 突き・押し |
翠富士 | 67kg | 押し・肩透かし |
東白龍 | 65kg | 突き・押し |
千代大龍 | 65kg | 突き・押し |
翔猿 | 62kg | 押し |
明瀬山 | 58kg | 突き・押し |
大栄翔 | 56kg | 突き・押し |
松鳳山 | 54kg | 突き・押し |
千代丸 | 35kg | 押し |
確かに、握力上位の力士は四つ相撲を得意としている傾向にあり、
反対に突きや押しなど手数で勝負する力士は握力がそこまで強くない傾向にあることが分かりました。
四つ相撲の場合、一度掴んだ廻しを絶対に離さないために、強靭な握力は必須なのかもしれませんね。
モンゴル出身力士の握力が強い理由
もう一つ注目したいのが、照ノ富士関、白鵬関、鶴竜関、玉鷲関のモンゴル出身力士は全員握力が強いことです。
モンゴル出身力士は握力だけでなく本場所での相撲も強いですが、理由としては以下が挙げられます。
モンゴル相撲の影響
モンゴル国内ではモンゴル相撲(現地語で「ブフ」)という国民的格闘技が盛んに行われています。
モンゴル相撲は、日本の相撲と違い投げ技が主流で、相手を掴んで投げを打つ腕力がものをいう競技です。
また、技の数も豊富で、日本の相撲の決まり手が82に対し、モンゴル相撲の技は500種類を超えます。
決まり手が多いゆえに多彩な攻撃ができ、攻撃を受ける側もそれに耐えうる柔軟性やバランス感覚、しいては総合的な筋力が養われるようです。
遊牧民としての生活
遊牧民として生活しているモンゴル人は、幼少期から馬に乗ることを覚えます。
この乗馬も、体幹や筋力が鍛えられる要因の一つといえるでしょう。
乗馬だけではなく、家畜のために水をバケツに入れて運んだり、木を切ったりします。
また、中学生ぐらいになると、子牛や子馬を綱で引くこともしますので、大人になるまでに一層筋肉が付いていくのです。
普段の厳しい生活の中で、屈強かつバランスの取れたしなやかな筋力が養われていくということですね。
【おまけ】引退した力士・親方の現役時代の握力は?
現役の力士もさることながら、引退した力士や親方の現役時代の怪力っぷりも負けてはいません。
元大関の魁皇関(現・浅香山親方)は入門して2年目で右手の握力が90kgを超えており、全盛期には110kgに達していたという記録が残っています。
それだけでなく、
・凍った水道の蛇口を無理やりひねったら蛇口ごと壊れた
・酔っ払ってバス停の標識を引っこ抜いた
など、耳を疑うような数多くの怪力エピソードも持ち合わせているのです。
また、公式な記録として歴代最強の握力を誇っているのは琴欧洲関(現・鳴戸親方)で、左手の握力が120kgという驚異的な数値が刻まれています。
ご紹介したとおり腕っぷしが強い琴欧洲関ですが、真面目な性格で賭博が嫌いであり、
プライベートでは積極的にボランティア活動に勤しむなど、「強くて優しいお相撲さん」のイメージそのままといえますね。
まとめ
ここまで、大相撲力士の握力についてまとめてみました。
筋肉質だったり、身体が大きかったりする力士が皆、力自慢なわけではありません。
得意とする取り口や、これまでの生活の背景が起因することがお分かりいただけたのではないでしょうか。
今回の結果を踏まえて相撲を観ると、力士同士の取組の相性も見えてきますし、より専門的な目線で観戦を楽しめることでしょう。
こちらの記事をきっかけに、読者の皆さまがより大相撲に興味を持ち、好きになっていただければ幸いです。