バレーボールでは全てのプレーがサーブから始まります。
単調なサーブでは相手チームに簡単にレシーブされてしまい、トスからのアタックという安定した攻撃パターンを許すことになります。
逆にいうと、サーブでレシーブを崩すことができれば、相手チームの攻撃リズムを乱すことができ、
自チームにチャンスが巡ってくることになります。
そのため、近年の国際大会ではより強力なジャンプサーブを使用する選手が増えています。
地面からサーブを打つ場合、ボールの軌道が山なりになるため、強すぎるサーブはコートに入らずアウトになってしまいます。
そのため、ジャンプして打点を高くすることでボールの起動を水平にし、より強力な打球でもコートに入るようにしたのがジャンプサーブです。
しかし、ジャンプサーブは難易度が高く成功率も下がるため、アマチュアレベルではデメリットの方が多くなりがちです。
そこで有効となるのが『フローターサーブ』と呼ばれる無回転のサーブです。
サーブとしての成功率も高い上に、無回転の弾道が予測不能な変化をもたらすため、攻撃型サーブとしてぜひとも修得したい技術とされています。
そんな『フローターサーブ』についてご紹介します。
無回転の原理
ボールが飛んでいく際には必ず空気の抵抗を受けます。
そして、抵抗を受けたボールの後方で空気は渦を発生し、空気力を発生させます。
発生した空気力はボールの回転方向によって力の向きが変わるため、それに応じてボールの軌道が変化します。
これが変化球と呼ばれるもので、野球ではカーブやシュートなど回転方向によって呼び名が付けられています。
この理論を詳しく説明しようとすると、工学系大学の履修科目である流体力学の教科書を引っ張り出してくる必要があるのでここでは割愛しますが、
回転しているボールに発生する空気力は方向が安定しているため、変化する軌道も予測しやすいです。
一方で、無回転の場合はどうなるかといいますと、ボールの後方に発生する渦の向きがランダムになります。
そのため、空気力の方向もランダムになり、結果としてボールの軌道が揺れるようになり、どこに落下するか予測しづらい挙動となるのです。
一見するとゆっくりなサーブで簡単にレシーブできるように見えますが、予測がつかない揺れによってレシーブする直前でボールをずらし、
レシーブのコントロールを乱すことが狙いとなります。
また、ある程度の初速と飛距離があった方が変化が大きくなるため、エンドラインよりかなり後方に距離を取って打つ選手も見られます。
ボールの違いによる挙動の変化
バレーボールを製作しているメーカーはいくつかありますが、国際大会公認球として認められているのはミカサとモルテンの2社のみです。
どちらも広島に本拠地がある日本のメーカーですが、常に新しいボールを開発しており、年々進化を遂げています。
世界のトップレベルで使われているボールが純日本製というのは日本人としては誇りですね。
ミカサとモルテンはそれぞれ特徴がありますが、
特に2009年の北京五輪から使われたミカサのMVA200というボールは従来のボールとは全く異なる特性で、
空気抵抗を減らしたマルチパターン構造によりコントロール性が非常によいとされています。
北京五輪以降もこのミカサのボールが世界大会の標準球として認定されました。
また、フローターサーブにおいても、ミカサのボールは変化が激しいと言われており、無回転の恩恵をより強く受けられるボールとなっています。
ボールによって、飛び方、変化のつき方、打った時の手応えなど、別物のように変わりますので、
公式の試合に出られる場合は本番を想定したボールを使用して練習した方がよいでしょう。
無回転で打つには
ビリヤードを例にして説明しますと、やったことのある人ならイメージしやすいですが、
ボールの中心以外のポイントで打つと何かしらの回転が発生します。
ボールの上の方を打つとトップスピン、下の方を打つとバックスピン、左右を打てばサイドスピンなど、
打つ位置の中心からのズレに応じた回転が掛かります。
バレーボールのサーブにおいても同じ原理であり、ボールの中心をしっかり捉えないと無回転にはなりません。
また、ビリヤードは固い棒で押し出すのに対して、バレーボールは手で打つことが大きく異なり、
いくら中心を捉えていても手首がしっかり固定できていないと手首のねじれによって回転が発生してしまいます。
それを踏まえ、フローターサーブを打つポイントとしては、
- 無回転でトスアップ
- 手首をしっかり固定し、手と腕が一枚板のような状態でボールの中心を押し出すように打つ
- インパクトの瞬間に前足に体重移動をし、荷重を乗せる
となります。
ただ中心を打つだけでなく、しっかり体重を乗せることで推進力が増し、威力のあるサーブとなります。
無回転の進化系『ジャンプフローターサーブ』
ジャンプフローターサーブとは言葉通りで、先に説明したフローターサーブをジャンプしながら打つ技術となります。
ジャンプサーブ同様に高い打点からボールを打つことで、通常のフローターサーブでは山なりになる弾道をより水平に近づけます。
そのため後方に下がって距離を稼ぐ必要がなくなり、エンドライン付近からサーブを打つことができます。
これにより低い弾道になる上に、サーブを打ってから相手コートに到達する時間も短縮されるため、相手チームは素早い対応が要求されます。
また前後左右のコントロール性にも長けているため、相手チームのポジションを見ながら狙い打ちすることもでき、
レシーブミスを誘発させやすいサーブとも言えます。
レシーブはあらかじめボールの落下点を予測し、しっかり構えることで安定して打つことができます。
予測が難しい弾道の上に短時間で移動が必要な場所に打ち込まれたら、
レシーブが得意な選手でも当てるだけで精一杯の状況になりますので、狙い打ちがしやすい変化球サーブは強力な武器となります。
基本的にはフローターサーブの打ち方をジャンプして行いますが、トスアップを無回転のままより高くあげる必要があるため、
当然難易度は高くなります。
しかし、フローターサーブ以上にメリットの多いサーブとなるので、修得する価値のある技術です。
まとめ
無回転が引き起こす予測不能な流れは、このバレーボールだけでなく野球やサッカーなどあらゆる球技においても活用されています。
また、各大学においても流体力学の中で様々な研究がされており、論文も発表されています。
普段、「こんなの学校卒業したら使わない無駄な知識じゃん!」と、何かと敬遠されがちな物理学ですが、
スポーツの世界において今回の無回転ボールの様に理論的に研究され有効性を証明している成果もあります。
こういう所から興味を持って踏み込むと、物理学の楽しさにも気付けるかもしれません。
全ての理論式を理解しなくても、原理がイメージできるようになるだけで、一つ謎が解けた感覚になれます。
実際にプレーする際にも、理論を把握しているとより効果的な活用方法をイメージしやすくなり、プレーの幅も広がってくると思います。