ジャイロボールと言えば、松坂大輔選手がメジャーリーグに挑戦した際、「初めてみる”魔球”」としてアメリカ中を驚愕させた変化球です。
ある人気野球漫画でも話題になりました。
ところが、ダルビッシュ選手はジャイロボールの存在を真っ向から否定しています。
逆に、大谷選手は憧れの松坂選手の投球をジャイロボールと称していました。
また、インターネットでジャイロボールと検索してみても、検索窓には『投げ方』『松坂』のワードに続いて『嘘』と出てきます。
それでは、一体ジャイロボールとはなんなのでしょうか。
ジャイロボールは存在しないのでしょうか。
今回はそんな”疑惑の魔球”ジャイロボールの真実に迫ります。
ジャイロボールとはなにか?!
ジャイロボールとは変化球ではなく、「ジャイロ回転」と呼ばれるボールの回転の仕方を指します。
ジャイロ回転とはドリルのような螺旋回転のことです。
ジャイロボールについては空気抵抗を受ける変化球として物理的な研究もされてきました。
ところが、多くの場合はスライダーやストレートを投げそこなって螺旋回転がかかっていることが多いのが実情です。
その一方で、螺旋回転に空気抵抗がかかることで、想像以上に速く見えることも遅く見えることもあります。
また、手元で急激な変化をするという特徴もあります。
そして、先ほども述べたように、ジャイロボールとはあくまでも回転の仕方を指します。
つまり、螺旋回転を意識的にかけることができれば、「ジャイロボールは投げられるようになる」と言えるのです。
プロ野球選手の中には意図的にジャイロ回転をかけている投手もいます。
ところが、螺旋回転と言ってもわかりにくいと思うので、ジャイロボールについて解説した動画を見てみましょう。
一言でジャイロボールと言っても、ボールの握り方によって呼ばれ方も空気抵抗の受け方も異なるので、それぞれについてみていきましょう。
ツーシームジャイロ
ボールの縫い目の面を打者に向けて投げる方法です。
この投げ方をすると大幅に空気抵抗が発生します。
ジャイロ回転がかかったボールはストレートと違い、マグヌス効果がはたらかないので、重力による自然落下をします。
マグヌス効果とは打者に向かうボールに垂直の力(揚力)が働き、上方向への力(浮力)がかかることを言います。
通常、このマグヌス効果で浮力がかかると、ボールは上に回転します。
野球ではこの状況のことを「バックスピン」と言います。
ストレートの場合はバックスピン(浮力)がかかります。
ところが、ツーシームジャイロの場合はバックスピンがかからないため、打者の近くで急激に減速してボールが自然落下します。
打者付近で急激に減速することで、大きく沈むストレート、と言う印象になるのです。
フォーシームジャイロ
ボールの縫い目が垂直になるようにして、ボールの面を打者に向けて投げる方法です。
縫い目が縦向きに回転するので、風を受け流して空気抵抗が極端に小さくなります。
フォーシームジャイロは空気抵抗をほとんど受けないため、投手が投球してから捕手に届くまでにほとんど減速しません。
つまり、初速と終速の差が非常に少ないため、通常のストレートよりも早く捕手に届くということです。
そこで、予想以上に伸びのあり、早く見えるストレート、と言う印象になるのです。
フォーシームジャイロも螺旋回転をしているので、当然バックスピン(浮力)はかかりません。
従って、ツーシームジャイロ同様、打者付近で自然落下します。
ところが、ツーシームジャイロよりも初速と終速の差が少ないため、ツーシームジャイロほど大きく落ちる印象は受けません。
フォークボールとの違い
「打者付近で大きく落下する」と言えばフォークボールが浮かびますよね。
では、フォークボールとジャイロボールの違いは何でしょうか。
フォークボールは意図的に空気抵抗を増やすことで、途中で大きく減速しながら打者付近で大きく落下させる変化球です。
一方ジャイロボールには意図的な空気抵抗がかかっていないため、打者付近に到達するまで減速しないで自然落下する螺旋回転のボールです。
スライダーとの違い
スライダーは人差し指と中指でボールに回転をかける変化球のことを言います。
スライダーは回転のかかり方により「横スライダー」「縦スライダー」と呼ばれて区別されています。
「横スライダー」はバックスピンとサイドスピン(利き腕と反対方向)の間の回転軸を持ちます。
サイドスピンがかかることで、投手の利き腕の反対方向に曲がります。
この時、バックスピンの成分が強ければ落下が少なく横滑りするスライダーになります。
また、サイドスピンの成分が強ければ沈みながら大きく横滑りするスライダーになります。
そして、なんと「縦スライダー」はジャイロ回転をしていて縦に落ちます。
ジャイロ回転をしているので、やはりバックスピンがかからず、初速と終速の差は小さくなります。
松坂投手のジャイロボールも歴史をさかのぼると、なんと日本では「縦スライダー」と呼ばれていました。
ジャイロボールは存在しないのか?!
先程、「縦スライダーもジャイロ回転して縦に落ちる」という、ショックすぎる発言をしてしまいました。
では、ジャイロボールは存在しないのでしょうか。
ジャイロボールとはなんなのでしょうか。
「ジャイロボール」という言葉の起源になった松坂投手のスライダーは135㎞/h以上で、現在で言う「高速スライダー」になります。
松坂投手は非常に高速の縦スライダーを投げていたということです。
このことから、高速の縦スライダーををジャイロボールと呼ぶ、という結論に至りそうです。
ところが、調べてみるほどにジャイロボールの存在を認める意見と認めない意見が二分していることが分かります。
一方には、「縦スライダー+高速スライダー=ジャイロボール」と呼ぶ派がいます。
もう一方には、綺麗なジャイロ回転のストレートだけをジャイロボールと呼び、
それ以外は近い回転であってもジャイロボールとは呼ばない派もいます。
さらに、少数ですがなんとジャイロ回転さえかかっていればすべてのボールをジャイロボールと呼ぶ派の人もいました。
そもそも、ジャイロボールのジャイロは”GYRO”と記載されます。
そして、衝撃的なことにこの”GYRO”には「螺旋回転」という意味はありません。
”GYRO”とはジャイロスコープという名前の略語です。
プロ野球選手ですら、「ジャイロボールとは何か」を明言できるような根拠や歴史がないのです。
無理やり定義づけをするとしたら、ジャイロボールとは変化球の種類ではなく、その特徴的な回転の仕方を指す、と言えます。
螺旋回転のボールを軸をぶらすことなく、しかも高速で投げることはプロ野球選手にとっても非常に困難です。
そして、ジャイロボールの中でも空気抵抗の受け方で体感的に球が速く感じることも遅く感じることもあります。
そのため、”魔球のような変化球”として認識されることが多いようです。
まとめ
- ジャイロボールはフォークボールのように意図的に落ちるように投げられていない
- ジャイロボールはストレートのようにバックスピン(浮力)がはたらかないため、減速せずに自然落下する
- ジャイロボールは螺旋回転している球のこと
ジャイロボールについて確実に言えることは上記の3点のみです。
野球が好きだからこそ、それぞれの野球感や考え方によって受け止め方もとらえ方も人それぞれのジャイロボール。
おそらく、どの意見が正しくてどの意見が間違えている、と言う明確な結論はこれから先も出ることはないでしょう。
まさに、”伝説の怪物”が放った”魔法”ならぬ、永遠の”魔球”ですね。